選挙が始まり、次男が可愛かった。
「〇〇をよろしくお願いします」
市議会選挙が始まって、にわかに家の周りが騒がしくなってきた。
選挙カーから流れる候補者の名前。ウグイス嬢の声。今となっては古いやり方だなぁと思う。
少なくなったとは言え、騒がしい音が気に障ることもある。ちょっとした渋滞があるかと思ったら、のろのろと走る選挙カーが前にいたこともある。
日曜日に、次男と一緒に自転車の練習をしていた。
すると、次男が急にもじもじし始めた。家の前から体を少し出して、近所の家を見ている。
つられて覗き込むと、ちょうど選挙カーから候補者が降りて、握手をしに行っていた。走って駆け寄り、走って車に戻ると。また選挙カーが走り始めた。
「こっちに来たらどうしよう」
何がどうしようなのだろうか。次男に聞いてみると、
「自分が握手をすることになったら、どうしよう」
ということだった。もし自分が大人と握手することになったら、と想像して、気持ちが 落ち着かないようだ。
そんなことを考えるなんて。
なんともかわいらしいな、と思った。
次男もだいぶ大きくなり、いわゆる幼稚園の頃のようなかわいさも、だいぶ減ってきた。
それはそれで成長の証なのだ。嬉しさの反面に感じる寂しさ。それを一瞬だけど消し飛ばした、次男の可愛い心配。
このことが嬉しくて。夜、妻にも話をした。
結局、選挙カーは次男に気がつくことなく通り過ぎた。
あるかもしれない、握手のために。自転車の練習を止めていた次男は、選挙カーが遠くに行くのを確認すると、再び自転車の練習を始めた。
更新 2023月04日18 16時11分